東京都文京区にある郁文館夢学園は、教育課程全般を通して「SDGs」に繋がる学びを提供する先進的な学校だ。「SDGs教育」とは、全教科・カリキュラム・学校行事などの学校生活をSDGs17項目と紐づけ、学ぶ目的を明確にし、目標へとつなげる教育である。
郁文館夢学園の独自の教育方法である「夢教育」と「SDGs教育」をかけあわせた教育を提供し、さらに、「郁文館SDGs教育日本一宣言」を掲げ、先生から生徒まで学校全体が一丸となってSDGsを推進している。
今回は、郁文館夢学園の理事兼中学校教頭である渡邉さんを取材し、郁文館夢学園の「SDGs教育」や、郁文館夢学園の教育理念、学校の具体的な取り組み、今後の「SDGs教育」の展望などについて詳しくお話を伺った。
郁文館夢学園が描く理想の教育とはなにか、「SDGs教育」を通して子どもたちになにを与えることができるのか、郁文館夢学園の多岐にわたる取り組みを探る。
見出し
SDGsは子供の夢の指数になる|夢を逆算するPDCA教育
ーーまず初めに自己紹介をお願いします。
渡邉:郁文館夢学園理事兼中学校教頭の渡邉と申します。よろしくお願いします。
ーーSDGsを教育に取り入れたきっかけはなんですか?
渡邉:郁文館の夢教育は、もともと社会と関わりながら課題発見や解決などを通して成長していくというカリキュラムがありました。国連がSDGsを発表した際に、夢教育はもともと生徒に伝えていた内容と本質は同じであり、SDGsを取り入れることが夢教育の実現につながると確信をしました。
社会貢献のためというわけではなく、生徒たちがこれからの社会を生き抜いていくためには、このSDGsをまなぶことが必要不可欠なことだと考えたのがきっかけです。
ーー教育理念やどのような教育を目指しているか教えてください。
渡邉:まず、郁文館では「子ども達の幸せのためだけに学校がある」という理念を掲げております。
ーー「夢教育」を掲げているということなんですが、「夢教育」というのはどのような教育なんでしょうか?
渡邉:そもそも、私たちの夢教育は、「25歳で輝く人材を育てる」というゴールを設定しています。
世間一般的にいう良い大学に入ったり、良い企業に入ることをゴールにするのではなく、自分が本当にやりたい仕事のための大学選び、企業選びが重要だと考えています。
社会に出て下積みをして、3年間、25歳になった時に初めて自分の人生が世の中に貢献できるような、一人前の人材になってほしいという思いで、この「夢教育」を掲げています。
ーー「夢教育」を通して大学入試や就職のその先を目指し、そこで活躍されることを目標に教育をされているんですね。
渡邉:郁文館夢学園では毎学期、必ず生徒と担任が、夢カウンセリングを行います。
夢カウンセリングでは、将来どんな大人になっていたのか、仕事を通してどんなありがとうを集めたいのか、そのために大学で何を学びたいのか、などの質問を通して、より目標を具体的なものにしていくサポートを行います。
ーー中高生だと大学に入ることなど、目先のことばかり考えてしまうと思うのですが、その先の目標を立てることをサポートをしているのですね。
渡邉:夢カウンセリングではオリジナルの夢手帳を使うのですが、手帳に自分の将来の夢を描き、それを具体的にイメージするために、写真を貼ったり、子ども達と絵を描いたりしています。
「〇〇歳でこれをやりたい」「そのためには今何をやらなければいけないのか」などを詳しく考え、そして今日一日何をやるのか決め、達成できたかどうかも手帳に書き込んでいきます。
そして、「今月はこれが出来たね」というように毎月先生と確認していく作業を行っています。
この手帳は毎年更新できるので、今年1年で「やりたいこと」を達成をするために毎月、毎日何をやるのかということをより具体的にしていくんです。
つまり、物事を達成するためのPDCAサイクルを学ぶということです。PDCAサイクルを今の内から学べるのは、郁文館の魅力かなと思ってます。
普通は社会に出てから、PDCAサイクルを学ぶ方が多いと思いますが、我々は中学1年生から目標を達成するための方法の話をしたり、計画を立てたら、チェックし、チェックをしたらそれを次に繋げていくように具体的にPDCAサイクルについて教えています。
ーー中学生で「夢教育」やPDCAサイクルを当たり前のように教えると仰っておりましたが、SDGsも同じように中学生から教えていらっしゃるんですか?
渡邉:SDGsについても中学生の時から教えています。
まず校舎に入った瞬間に、SDGsが私たちの学校の重要な取り組みだということがわかるようにしています。
SDGsとは、世の中全てのことに紐づく17の項目です。例えば、私は国語の教員なので、教科書で伝統食を扱ったりします。それをエシカル消費などにつなげて授業を行っています。他の教科でも同様です。
カリキュラムや授業のシラバスの中で関係するSDGsの項目に紐付けて作成してるため、この単元ではこのSDGsの項目を教えるなど明確な目的を持った取り組みを全教科で行っております。また、全教室にSDGs17項目のマグネットがあるんです。
授業をしながら、今日はこの項目をやるよと説明することで、授業内容とSDGsの各目標が紐づくように工夫しています。また、視覚化することも意識しています。
さらに、学校の特徴の1つは、NIE(新聞教育)に力をいれていることです。週に2回、新聞を読み、みんなでアウトプットする作業を行っています。また、教員が独自でNIEの動画を作って、配信をしたりしています。
ーー社会課題について身近に考えられる機会がたくさんあるということですね。
渡邉:はい。そうですね。
また、社会課題をより身近に考えられるようにするために、さまざまな留学プログラムがあります。
郁文館には4校の学校があり、4種類の留学コースを設定しています。
・1年間に渡り、1人1校、カナダ・ニュージーランド・オーストラリアへ行くグローバル高校の留学
・3ヶ月間、1人1校でニュージーランドに留学する高校のワンターム留学
・6週間、1人1校でニュージーランドへ行く中学校GL特進クラスの短期留学
・昨年度開校した通信高校ID学園の選べる留学生徒一人一人に合った留学を実践しております。
余談ですが、今年4月、コロナ禍の中でも郁文館グローバル高校は生徒約80名の生徒をカナダへ送りました。現在もなお、生徒たちはカナダで全力で学んでおります。
また、高校では修学旅行が実は無く、PBLツアーというものを実践しています。
PBL(Project Based Learning):問題(課題)解決型学習 これは1年生の頃からSDGsの目標1から17の項目を踏まえ、夕張、陸前高田、山陰、臼杵、屋久島、シンガポール、台湾、カンボジアの8つのコースを用意し、SDGsの項目に関連付いたツアーを行うというものです。
【提供】郁文館夢学園のSDGs関連のプロジェクト
「SDGs教育×夢教育」に込められた思い。夢を叶えることがゴールではなく、人間性の向上が究極の目的。
ーー郁文館の活動の中で、大事にされている軸のようなものはありますか?
渡邉:人間性の向上です。
私たちは「子供たちの幸せのためだけに学校はある」という教育理念を掲げていますが、我々にとっての幸せ、つまり究極の目的は実は「夢を叶える」ということでありません。
我々の究極の目的は、人間性の向上です。人間性が向上したときに、生徒が幸せになると考えています。
郁文館夢学園は、生徒が喜ぶことを実現することだけがいいとは考えておりません。我々は、時に厳しく生徒を指導することもありますし校則も厳しいです。
人間性を向上させるために必要なことは、日々の自らの生活や行動、言動などを常に振り返り反省をして、明日に向けて改善していく、その繰り返しだと考えています。そのために手帳で日記を書かせているのですが、振り返り、改善につなげることの重要性を理解してもらうための取り組みです。
そこでも、夢を持つことで目標をポジティブなものにしていけるからこそ、生徒に夢を持とうと話をしています。
夢を叶えるために必要なものは3つの力で、人間力・学力・グローバル力だと考えています。この3つを「夢教育」を通して育成するということが我々の学校にとっての軸です。
ーー具体的に生徒が激変したSDGsに関わる教育や取り組みはありましたか?
渡邉:中学2年生の体験型修学旅行の衝撃は大きいと思います。
鶏の屠殺を経験します。羽をむしられた直後の鶏を触って、命を感じるんです。この体験を通して生徒たちの「いただきます」の重みが変わります。
今まで、ただの「いただきます」が、「命をいただきます」という思いが込められるようになります。子ども達のご飯を食べる様子を見てとても感じます。
ーー本当に貴重な経験だと思います。SDGs教育を通してニュースや社会課題に興味を持つ生徒って増えるんですか?
渡邉:増えます。
「あなたがその夢を叶えたら、どんな素敵な奇跡が起きるんですか?」と学生に問いかけることが多いのですが、その回答も変化してきました。
私も去年まで担任だったのですが、子ども達に将来の夢はなにかと聞くと、「最近は新聞記事を読んで、今の世の中がこうなっています。だからそれをこうやって解決したい」というように社会課題を踏まえて具体的に答えてくれる生徒がいるんです。
具体的に遠い将来を考える際に例えば「建築士になりたい」という夢ではなくて「一級建築士になって貧困な人たちのために家を造りたい」というイメージや、「学校の先生になって社会で通用する生徒を育てたい」など自分が学校の先生になったら何をするのかまでをイメージできるのが郁文館の生徒の強み・特徴だと思います。
夢が決まっていない生徒ももちろんいますが、それは全然悪いことではないと考えています。
20年30年後には、今は無い仕事が半分以上になる激動の時代に、夢を持ちづらいことも当たり前だと感じる瞬間があります。その子達には、「仕事でなくてもいいから何をやりたいのか考えよう」と伝えています。
社会課題をすべて自分事として捉えてほしい。郁文館夢学園が描く未来。
ーー最後にこれからの「SDGs教育」を通してどのような生徒を育てていきたいか、お伺いします。
渡邉:これからは、SDGsの目標1から17の中に社会のたくさんの諸問題がある中、学生のうちからできることは何かを考えられる生徒を育てたいと思っています。
12歳~18歳でもできることはたくさんあると思います。これは、大きなプロジェクトばかりを追い求めるのではなく、目の前の小さなことでも実行することが大切だと考えています。
学校としては、子ども達がやりたいと思っていても、普通だったら諦めてしまうようなことも大人たちがサポートし、実践できる学校にしたいと考えています。
普通だったら見逃してしまいそうな問題でも、SDGs教育と結びつけることにより、できることから、身近なことから社会問題を解決するというより実戦的なSDGs教育ができるのではないかと考えています。
SDGs の17項目を、知識としてだけで終わらせたくないと考えています。
実社会に現実として存在するのは、17の項目の奥にある169のターゲットを子供達が何か一つでも達成できるような学校にしたいと考えています。
ーーSDGsが世界に広まって、いろいろな人が参加するSDGsを推進していく段階で、学校が果たす役割ってどんなところだと思いますか?
渡邉:学校が果たす役割は何かと考えた時に、いかに世の中の社会問題を自分事化させるかだと思います。
これは、政治という観点にも関わってくると思います。
今、政治に対しても、自分の1票で何かが変わると思っている生徒は少ないと思います。自分の一票で社会変わるか変わらないかは分かりませんが、自分が変えたいと思わなければ、投票率や世の中は絶対に変わりません。
この考えを持った生徒達が、また次の世代に「自分事化しないとダメだよ」と伝えていけるような循環を作ることが教育の使命であり、教育から社会を変えることだと思っています。
~~~~~~以上~~~~~~
今後も「SGDs教育日本一」を目指して、「できることから」「身近なことから」をテーマに、地に足の着いた様々な取り組みに挑戦していきます。